テーマ:働き方改革(第5回)現場が動かない理由 — 従業員の「腹落ち」を促すコミュニケーション術

制度をつくった。
ルールを整備した。
説明会も開いた。
——それでも、現場が動かない。

働き方改革の推進において、最も多く寄せられる悩みがこれです。
「制度は整ったのに、なぜ現場は変わらないのか?」

その答えは一つ。「腹落ちしていない」からです。
つまり、従業員一人ひとりが、自分ごととして納得していないのです。

今回は、現場の納得感を高め、実行へとつなげるための「伝え方」「巻き込み方」「対話のあり方」に焦点を当てます。


1. 現場が「腹落ち」しない3つの典型パターン

■ パターン①:経営目線の話ばかりで、自分に関係があると思えない

「生産性向上」や「競争力強化」という言葉は、現場にとっては遠い話です。
**「それが自分の働き方にどう関係するのか」**が見えなければ、動きません。

■ パターン②:形式的な説明で終わっている

「制度の使い方」だけ説明され、「なぜやるのか」「何を変えたいのか」といった背景や目的が語られないと、受け手の理解は浅くなります。

■ パターン③:「上からの押し付け」に感じられている

従業員にとって「また何か始まった」「決められたからやらされている」という印象になってしまうと、表面的な行動しか取られません。


2. 現場が“自分ごと化”するコミュニケーション術

現場に変化を起こすには、「伝える」だけでなく「納得してもらう」ことが必要です。以下の3つが特に重要な観点です。

✅ ① 「WHY」から語る:目的と背景をセットで伝える

制度の概要ではなく、「なぜ今、改革が必要なのか」「どんな問題を解決したいのか」から始めることで、従業員の共感と関心を引き出せます。

✕「来月から在宅勤務制度を導入します」
◎「通勤時間や家庭事情で困っている声が多く、柔軟な働き方が求められています。そのために——」

✅ ② 「あなたにとってのメリット」を明確にする

制度導入の狙いが組織目線だけで語られると、従業員は「自分には関係ない」と感じがちです。個人の立場でどんな良いことがあるのかを示しましょう。

例:

  • 仕事の裁量が広がる
  • 通勤ストレスが減る
  • 子育てや介護との両立がしやすくなる

✅ ③「一方通行」ではなく「双方向」の対話にする

一度の説明会で終わらせず、小規模な座談会、意見交換、1on1などの場を通じて、疑問や不安を受け止めることが大切です。
「話せる場がある」という安心感が、現場の理解と協力を促進します。


3. 「声を聴く」ことが、推進力になる

制度を“現場仕様”にするには、実際に使う人の声を反映させることが不可欠です。
そのためにも、次のような継続的な対話の場づくりをおすすめします。

◼ 意見回収→改善→フィードバックのサイクルをつくる

アンケートや面談での意見を拾い、可能な限り制度や運用に反映し、変更点は「●●さんの声で変わりました」と伝える。
この繰り返しが、現場の信頼を築きます。

◼ 「現場の代表者」=チャンピオンを巻き込む

改革に理解ある現場リーダーやミドル層を早期に巻き込み、現場発の推進役にすることで、現実的な落とし込みが可能になります。


まとめ

  • 現場が動かないのは「腹落ち」していないから
  • 説明ではなく「対話」と「納得」を重視する
  • WHYから語り、個人のメリットに落とし込み、双方向で進めることが肝要

次回は、「DXと働き方改革—システム導入だけでは何も変わらない」と題し、デジタルツール導入が目的化してしまう失敗例と、真の“業務改革”につながるアプローチを解説します。

テーマ:働き方改革(第4回)「時短」だけが改革ではない — 成果主義と納得感のバランスをどうとるか

働き方改革というと、

「残業時間の削減」
「所定労働時間の短縮」
「効率化による時短」
といった“時間”の削減に注目が集まりがちです。

もちろん、長時間労働の是正は改革の大きな柱です。しかし、「時短」だけが目的になってしまっていないか、今こそ立ち止まって考えてみる必要があります。

時間を減らすことにばかり意識が向くと、「早く帰ること」が目的化し、かえって納得感のない成果主義や働きづらさを招くリスクがあるのです。


1. 時短偏重がもたらす“副作用”とは?

■「効率だけ」が重視され、質よりスピードに偏る

短時間で成果を出すことが求められるあまり、じっくり考える仕事が敬遠され、「手早くできること」が評価されがちに。

■ 個人間の“時間努力”が見えにくくなる

例えば子育てや介護との両立で時短勤務の人と、長く働ける人の間に「評価の不公平感」が生まれやすくなります。

■「早く帰る」=「働いていない」という誤解が生まれる

職場の意識が追いつかないまま「早く帰れ」が徹底されると、むしろ働き手のストレスや孤立を招くこともあります。


2. 改革の本質は、“時間”ではなく“成果と納得感”の両立にある

働き方改革の目的は、単に労働時間を短くすることではなく、限られた時間の中でいかに成果を出し、個人と組織の満足度を高めるかにあります。

そのためには、以下のような視点が不可欠です。

時間ではなく「貢献」や「価値」を評価する仕組みへ

「誰が何時間働いたか」よりも、「どのような成果を出し、組織にどう貢献したか」を見える化することが、納得感ある評価と柔軟な働き方を両立させます。

定量評価だけでなく“プロセス”や“対話”を重視

特に定性業務やチーム貢献が多い職場では、「数字だけの成果主義」は限界があります。上司との1on1や、チーム内でのフィードバックを重ねることが重要です。

“成果の基準”をすり合わせる機会を持つ

時間や場所がバラバラでも、何を成果とするかが曖昧だと、メンバー間の誤解や不満が生まれます。評価基準の透明化や、マネージャーによる説明責任が求められます。


3. 「働きやすさ」と「働きがい」のバランスが組織を強くする

改革の中で忘れてはならないのが、働く人の“納得感”と“やりがい”です。

たとえば:

  • 「時間を減らせた」だけではなく、「自分の力を発揮できている」実感があるか
  • 「会社に合わせる」ではなく、「会社が自分の働き方に合わせてくれている」と感じられるか
  • 「時間ではなく価値で見てもらえている」安心感があるか

このような視点が揃ってこそ、本当の意味での“成果主義”が機能し、社員が自律的に働ける組織文化が生まれます。


まとめ

  • 働き方改革の目的は「時短」ではなく「成果と納得感の両立」
  • 評価制度を「時間軸」から「価値・貢献軸」へシフトさせることが鍵
  • 働きやすさと働きがい、その両方を支える仕組みが持続的成長を生む

次回は、「“働きやすい”の落とし穴 — 優しいだけの職場が抱える問題とは?」というテーマで、「改革のやりすぎ」や「甘さ」が生む新たな課題について掘り下げていきます。

テーマ:働き方改革(第3回)管理職がボトルネック?ミドルマネジメントと働き方改革のジレンマ

「働き方改革を進めたいけれど、管理職が動かない」
「制度を導入しても、現場での運用が止まってしまう」

そんな課題を抱えている企業は少なくありません。
その多くに共通するのが、“中間管理職がボトルネック”になっている構図です。

今回は、なぜ管理職が働き方改革を阻んでしまうのか?そして、どうすればその“無意識の抵抗”を超えていけるのか?を考えていきます。


1. 管理職が働き方改革に抵抗する理由とは?

改革を“止めている”ように見える管理職も、実は個人として反対しているわけではないケースがほとんどです。背景には、次のような複雑な事情があります。

■ 結果責任があるから、リスクを取りたくない

→ テレワークやフレックスを部下に認めて失敗したら、責任を問われるのは管理職自身。新しい制度を使わせるより、従来通りのやり方の方が“安全”なのです。

■ 評価制度との不整合

→ 働き方改革を進める一方で、評価軸が「稼働時間」や「上司の目に見える努力」に偏っていると、部下の柔軟な働き方を推奨しにくくなります。

■ 「改革推進」が自分の評価項目になっていない

→ 経営層から「改革を進めろ」と言われても、それが自分の人事評価に関係ないなら、どうして優先的に取り組む必要があるでしょうか。


2. 管理職に「働き方改革の意義」を腹落ちさせるには?

中間管理職が変わらないと、現場も変わりません。
そのためにまず必要なのが、彼らに**“改革の当事者”としての意識を持ってもらうこと**です。

✅ 経営メッセージを管理職向けに「翻訳」する

「生産性向上」や「多様な働き方推進」といった抽象的な方針だけでは、現場管理職は動けません。
「業務の属人化を防ぐこと」「部下のモチベーションを高めることで成果につなげること」など、“自分のマネジメント課題とどうつながるのか”を言語化することが重要です。

✅ 「やってよい」「失敗しても責めない」という明確な保証

心理的安全性がないと、行動は変わりません。小さな実験的取り組みを認め、成果だけでなく「挑戦した姿勢」も評価する文化を示しましょう。

✅ 改革を「業績貢献」につなげる支援をする

働き方改革が「単なる負担増」になってしまわないよう、業務の見直しやDX支援、属人化解消の取り組みなどとセットで進めることが理想です。


3. 「現場任せ」にしない仕組みづくりを

改革が管理職任せになってしまうと、組織の中で「やる人とやらない人」の差が生まれ、かえって不公平感が増します。

◼ 部署横断の推進チームを設ける

人事・総務に限らず、現場の管理職や経営層も巻き込んだ横断チームを作ることで、「経営と現場の橋渡し」ができます。

◼ 管理職向けの「対話の場」をつくる

研修や意見交換の場を設け、他部門の事例や悩みを共有することで、孤立感や抵抗感を和らげることができます。


まとめ

  • 管理職が働き方改革に消極的な背景には、「責任」「評価」「目的不明瞭」などの構造的要因がある
  • 管理職にとっての“改革の意味”を丁寧に伝えることが不可欠
  • 推進は現場任せにせず、全社的な支援と仕組みづくりを

次回は、「『時短』だけが改革ではない—成果主義と納得感のバランスをどうとるか」と題し、時間削減偏重の改革に潜む落とし穴と、成果を出せる働き方改革のあり方を掘り下げます。

テーマ:働き方改革(第2回)テレワーク定着の壁—「出社圧力」の正体と対処法

テレワーク制度を導入したにもかかわらず、

「結局、みんな出社している」
「制度はあるのに、誰も使っていない」
と感じたことはありませんか?

これは「出社圧力」という無言の空気が職場に漂っている可能性があります。今回は、この目に見えにくい“空気”の正体と、それを解消するための具体策について考えていきましょう。


1. 「出社圧力」はなぜ生まれるのか?

制度としてはテレワークが可能であっても、実際に利用されない理由は以下のような心理的・文化的な要因によるものが多いです。

■ 上司が出社している

上司が出社を前提にしている場合、部下は「在宅では評価されにくい」「顔を出さないと心証が悪い」と感じます。

■ チーム内に「誰も使っていない」状態が続く

テレワークは一人では使いにくい制度です。「自分だけが在宅だとサボっていると思われそう」「連絡しづらい」と感じてしまい、結果的に全員出社…という悪循環に。

■ 業務プロセスが「出社前提」になっている

紙の書類への押印、対面での承認、固定電話対応など、制度だけでは解決できない“仕組みの壁”が残っているケースもあります。


2. 出社圧力を解消する3つの実践ポイント

✅ ① 管理職が「在宅勤務の見本」になる

現場に与える影響が大きいのは管理職です。まずはマネージャー層が率先して在宅勤務を活用することで、テレワークが「使ってよいもの」として自然に根付きます。

✅ ② テレワーク活用の目標と実績を“見える化”する

「週1回以上の在宅勤務を目標」といった目安を設定し、部署ごとの実施状況を社内で共有することで、心理的ハードルが下がります。表彰や称賛の仕組みを加えるのも効果的です。

✅ ③ テレワーク前提の業務フローに見直す

書類の電子化やクラウド活用、チャットでの承認プロセスなど、「物理的に出社しなくても仕事が進む仕組み」を整えることが根本解決につながります。


3. 「出社か、在宅か」ではなく、「選べる働き方」へ

テレワークは、万能な働き方ではありません。業種や職種によっては難しいケースもあります。ただ重要なのは、「選択肢がある」「働く人が選べる」という状態を整えることです。

出社も在宅もフラットに選べる環境こそが、社員の納得感と生産性を生み出します。そしてそれは、離職防止や採用強化といった経営面にもつながっていきます。


まとめ

  • テレワークが定着しない原因は、制度ではなく「空気」や「仕組み」にある
  • 管理職の行動、見える化、業務フロー改革が定着の鍵
  • 「出社か在宅か」ではなく「選べる働き方」の実現を目指す

次回は、「管理職がボトルネック?ミドルマネジメントと働き方改革のジレンマ」と題して、改革を阻む“中間管理職の本音”に焦点を当てていきます。

2024年の出生数が初の70万人割れ 出生率最低1.15

厚生労働省が6月4日、2024年の人口動態統計を発表しました。日本で生まれた日本人の子どもの数は前年比5.7%減の68万6061人で、統計のある1899年以降初めて70万人を割ったとのこと。国の想定より15年早いことになります。

また、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.15で、前年(1.20)より0.05ポイント下がり、3年連続で過去最低を記録しました。石破首相の「少子化は静かなる有事」という言葉が頭をよぎります。何とかせねば。。。

テーマ:働き方改革(第1回) 働き方改革の「その後」—制度導入だけで終わっていませんか?

働き方改革という言葉が社会に広まり、数年が経ちました。御社でも、フレックスタイム制やテレワーク制度、有給取得推進、残業時間の管理強化など、何らかの取り組みを導入されたのではないでしょうか。

しかし、最近こうした声をよく耳にします。

「制度は整えたけど、実際には現場がうまく活用していない」
「評価制度が変わっていないから、結局長時間働いた人が評価される」
「テレワークOKにしたのに、誰も使ってくれない」

これはまさに、“制度導入で止まっている”状態です。本当の改革とは、制度を「使いこなす文化」を根づかせること。今回はそのギャップに焦点を当てながら、「制度導入後、何をすべきか?」について考えていきます。

1. なぜ制度は使われなくなるのか?

多くの企業では「制度設計」がゴールになりがちです。しかし、実は制度よりも「制度を使うことへの心理的ハードル」が、現場での定着を妨げていることが多くあります。

たとえば:

  • 使ったら評価が下がるのでは?という不安
  • 周囲が誰も使っていないから、使いづらいという空気
  • 制度が運用に合っていない(現場の実態に合わないルール設計)

こうした“見えない壁”が、制度の実効性を奪っているのです。


2. 働き方改革の「第二ステージ」へ進むには?

制度導入が「第一ステージ」だとすれば、今こそ次の段階である「第二ステージ」に移行するべきタイミングです。第二ステージでは、以下のような観点が重要になります。

運用の見直しと現場ヒアリングの継続

導入した制度がどれだけ使われているか、使いにくさはないか、現場の声を定期的に吸い上げましょう。制度を“現場仕様”に調整する柔軟性が、定着のカギになります。

制度活用のロールモデルをつくる

管理職やキーパーソンが制度を率先して使うことで、「使っていい雰囲気」が広がります。活用して成果を出している人を社内で可視化するのも有効です。

評価制度とセットで見直す

働き方を変えたのに、評価基準が旧来の「長時間労働前提」のままだと、誰も本気で制度を使いません。働き方改革は、人事制度との連動が不可欠です。


3. 改革は「続けるもの」—一過性にしないために

働き方改革とは「一度きりのイベント」ではなく、企業文化を更新していく継続的なプロセスです。経営者や人事が旗を振り続け、現場と対話し続けることで、初めて実を結びます。

ときに立ち止まり、ときに方向修正をしながら、「本当に働きやすい」「成果が出やすい」職場とは何かを問い続けていくことが、組織の持続的な成長につながります。


まとめ

  • 働き方改革は「制度をつくること」ではなく「制度を活かす文化をつくること」
  • 現場の声、評価制度、ロールモデルが定着のカギ
  • 改革は継続的な取り組み。検証→改善→定着のサイクルを意識することが重要

次回は、「テレワーク定着の壁—『出社圧力』の正体と対処法」というテーマで、現場の“なんとなく出社してしまう空気”を打破するヒントをご紹介します。

働き方改革ブログをスタートします

昨年の社労士試験に合格し、現在、事務指定講習の受講中。2月~5月で合計60枚の様式を作成、提出し、前半の通信指導を無事完了しました。7月から始まる後半のeラーニング講習を修了すれば、いよいよ社労士登録可能となります。

そこで、これまで殆ど力を入れてこなかったこのサイトを少しずつアップグレードしようと決めました。第1弾として、定期的にブログで働き方改革に関する情報発信を始めようと思います。

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